シリコンフォトニクスクラスター
シリコン半導体、光通信、人工知能を高度に融合して
次世代通信の根幹を支える
小型化、低コスト化、低消費電力化が可能なシリコンフォトニクスをプラットフォームとし、その能力を引き出すために、設計技術と特性評価技術を抜本的に見直すことに挑みます。機械学習/人工知能を活用し、効率的なデバイス設計を実現する研究開発に取り組みます。併せて、迅速な測定が可能となる特性評価用光回路の研究を進め、フォトニクスデバイスの検査工程を短縮化し、大幅なコスト低減を目指します。
コーディネーター
福田 浩 Hiroshi Fukuda
公立千歳科学技術大学 教授・博士(工学)
専門分野
光集積回路,電磁場シミュレーション,情報通信
経歴
東北大学工学部原子核工学科卒業
東北大学大学院工学研究科原子核工学専攻博士前期課程修了
日本電信電話株式会社LSI研究所
NTTエレクトロニクス株式会社光半導体事業部 技術主任
日本電信電話株式会社マイクロシステムインテグレーション研究所 研究主任
日本電信電話株式会社マイクロシステムインテグレーション研究所 主任研究員
東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻博士後期課程修了
日本電信電話株式会社デバイスイノベーションセンタ 主幹研究員
日本電信電話株式会社先端集積デバイス研究所 主幹研究員 グループリーダ
明星大学理工学部 非常勤講師
公立千歳科学技術大学理工学部情報システム工学科 教授
所属学会
IEEE,電子情報通信学会,応用物理学会
シリコンフォトニクスが長年に渡ってかかえている課題
なぜ低コスト化が進まないのか
世の中の多くのデバイスは、部材費、組立費、検査費と歩留りから構成されています。シリコンフォトニクスはシリコン半導体工場で光デバイスを製造することで低コスト化できる可能性を秘めています。ただ、世界を見渡してみても、これまでに大幅なコストダウンに成功したシリコンフォトニクスメーカはありません。
部材費を下げ、歩留りを向上させることはできても、組立費と検査費が依然大きな割合を占めているためです。これは光デバイスの組立や検査の際に、光を出し入れする光ファイバと光デバイスの精密な位置合わせ (アライメント) が欠かせないことに起因しています。組立でも検査でもアライメント時間はそのまま組立・検査のコストとして反映されます。逆に考えるとアライメント時間を大幅に短縮することができれば,組立・検査コストを削減することが可能です。
精密なアライメントが必要となる理由は、光ファイバと光デバイスの位置関係を常にベストコンディションに保つことで、再現性を保証しているためです.これは検査工程にとって重要な考え方ですが、ベストなコンディションでなくても高い再現性を保証することができれば,時間がかかる精密なアライメントは不要になると考えることもできます。
光デバイスを少し工夫すると,光デバイス内部で光の経路を比較的容易に切り替えることができます。この経路切り替え機能を使うことでアライメント時間を削減しながら光デバイスを検査することが可能になります。これまでにこの手法の有効性を原理的に確認してきました。今は実際の光デバイス製造現場で有効性を確認する段階に来ています。
キーワード
■シリコンフォトニクス(Silicon photonics)
シリコンをコア材料とし、二酸化シリコン(SiO2)をクラッド材料とする光導波路をベースにしたフォトニクスデバイス技術。コア/クラッドの屈折率比が大きいことからコアへの光閉じ込めが極めて強く、小さな曲げ半径で光導波路を形成することができることから、光集積回路の超小型化が可能。シリコン半導体デバイス工場で製造できることから、大口径ウエハを用いた大量生産の可能性も大きな特徴である。半導体シリコンの特性を利用した各種機能デバイス、シリコンと同族のゲルマニウムを局所的に用いた受光デバイスなどを同時に形成できることも優れた特長として挙げられる。
光デバイスと情報工学の接点-その1
人工知能・大規模言語モデルがデバイス設計を抜本的に変える可能性
シリコンフォトニクスは大きな可能性を秘めているので、多くの企業で精力的に実用化が進められていますし、今でも多くの学術機関で研究テーマとして取り上げ、更なる可能性を追求しています。ただ、情報工学の観点から研究開発に取り組んでいる例は少ないようです。
昨今話題の生成AIは、膨大な量のデータを事前に学習した人工知能をもとにしています。生成AIは、Webページの情報や各種出版物の情報など、我々が日常生活で触れることができる情報を学習しているので、日々必要とするデータを新たに生成することは得意です。一方で、専門的な分野の情報生成は未だ苦手で、更なる研究開発が必要です。
シリコンフォトニクスをはじめとする光デバイス分野では、実際にモノを作る前にシミュレーション計算をして設計図面を作ります。熟練した設計者はシミュレーションで調整すべき設計項目を予測しながら設計を進めます。この過程は生成AIが使っている大規模言語モデルになぞらえることができます。数多くのシミュレーション結果を十分に学習していれば、未知のシミュレーション結果を精度良く予測することができると考えられます。サロゲートモデルという考え方で、急速に研究開発が進んでいます。
シリコンフォトニクスデバイスの設計に必要となるシミュレーションを効率的に行うために、大規模言語モデルが持つ可能性を引き出すことを目指しています。
キーワード
■大規模言語モデル(Large language model, LLM)
巨大なデータセットを深層機械学習したエンジンにより構成される予測生成モデル。計算量、データ量、パラメータ数が多く、精度の高い予測生成ができることから世界中から注目を集めている。Attention機構を持つことで,文や単語の関係性と出現確率を精緻に学習することから、自然言語処理に使われることが多いが、他の様々な用途での使用も検討されつつある。
光デバイスと情報工学の接点-その2
画像処理がデバイス設計を補う可能性
情報工学の中で、画像処理は大きな技術分野です。今やソーシャルメディアなどで飛び交うデータは、文章や音声よりも、画像や映像が大きなボリュームを占めますし、その傾向は益々強くなるでしょう。
画像処理技術としては画像認識が有名ですが、ほかにも多くの技術があり,その一つに超解像技術が挙げられます。不鮮明な画像を鮮明化する技術で、古くから様々な手法が検討されてきています。昨今は機械学習・人工知能を用いた超解像が注目されています。
デバイスの設計に必要なシミュレーションは、多くの場合,結果として画像を出力します。鮮明な画像を出力するシミュレーションは長い計算時間が必要ですが、不鮮明な画像を出力するシミュレーションは計算時間が短く済みます。その差は時に100倍以上になることもあります。
そこで我々は、短い時間で計算した不鮮明なシミュレーション画像を、超解像技術を活用して、鮮明な画像に再構成する研究を進めています。未だ基礎検討の段階ですが、いくつかの原理検証は完了しており、その有効性を確認しています。今後、実際のデバイス設計に応用するために詳細検討を進める予定です。
キーワード
■超解像(Super-resolution)
ピクセル数の少ない入力画像(映像)に対し、ピクセル数の多い出力画像(映像)を生成する技術である。ノイズ除去や輪郭補正、補完処理などの技術がある。平均的な処理を施すだけでは画像が鮮明になることは無く、画像の特徴に応じてエッジ強調などを組み合わせることが多い。本研究では畳み込みニューラルネットワークによる画像学習を利用した超解像を用いている。