三次元画像センシング技術応用研究クラスター
研究クラスター事業

三次元画像センシング技術応用研究クラスター

三次元センシング技術を応用し、
市民の生活の中にある課題の解決に取り組む

健康増進、安全見守り、農業、アミューズメントなどをターゲットとし、市民生活の向上を目的とした三次元画像計測技術・AI技術・VR技術などを応用した、新しいセンシングアプリケーションシステムの研究開発に取り組み、その実用化を目指す。

コーディネーター

coordinator

青木 広宙 AOKI Hirooki

公立千歳科学技術大学 教授・博士(工学)

専門分野

画像工学、生体医工学、計測工学、福祉工学、スポーツ工学

経歴

早稲田大学理工学部資源工学科卒業
慶應義塾大学大学院理工学研究科学位(博士)取得
ケミカルグラウト株式会社技術本部技術開発部
西澤国際特許事務所法務部
慶應義塾大学大学院理工学研究科電気工学専攻後期博士課程 単位取得退学
慶應義塾先端科学技術研究センター・研究員
慶應義塾大学 知的資産センター・技術移転アソシエイト(文部科学省産学官連携コーディネーター)
香川大学 知的財産活用本部 助手
学位取得(博士(工学),慶應義塾大学)
東京理科大学 理工学部電気電子情報工学科 嘱託助手・嘱託助教
名古屋工業大学大学院おもひ領域 特任助教・特任准教授
広島市立大学大学院情報科学研究科 特任准教授
鹿児島大学大学院理工学研究科 特任准教授
千歳科学技術大学総合光科学部光システム学科 准教授
公立千歳科学技術大学理工学部電子光工学科 准教授
公立千歳科学技術大学理工学部電子光工学科 教授

所属学会

IEEE、電気学会、電子情報通信学会、計測自動制御学会、日本生体医工学会、ライフサポート学会

三次元センシング技術とAIの融合
人に触れることなく呼吸・心拍などを測定

これまでは市民の健康増進を目的として、三次元画像計測技術を応用したヒューマンセンシングシステムの研究・開発に取り組んでいました。しかし、この研究がスタートした当初に比べ、高齢化社会が急速に進んだことを要因として、安全確保や見守りに関して世間の関心が強くなってきました。これを踏まえて、安全見守りについても同様の技術が活かせないかと考え、取り組みの幅を拡げています。

プライベート空間での急な事故の発生を、三次元センシング技術とAI技術により発見、警報を発する見守りシステムを開発しています。

三次元センシングシステムに利用するカメラは、通常の写真を撮るカメラとは違い、「三次元カメラ」や「深度カメラ」「デプスカメラ」などと呼ばれる特殊なカメラを使います。そのカメラを用いて体の動きや形状などを測ります。人体の形の変化を元に、その人の状態や呼吸・心拍などの生体信号を測ることができます。

この技術とAI技術を融合することによって、人が判断するのと同じくらいの精度で見守り続けることができます。例えば、急に転倒してしまったという事態が発生し、倒れた状態が長く続くようであれば、外部の家族、医療機関や福祉施設などに警報としてお知らせすることも可能です。

他にも、生体信号計測への応用が可能です。人が呼吸をすることによって、胸部の形状が変化します。さらに条件が良ければ、心拍と呼吸を分離して計測することも可能です。これまでは、呼気ガス分析装置と呼ばれるマスクを顔面に装着して測定する方法で呼吸を計測するのが一般的でしたが、非接触(無拘束)の状態で呼吸信号を測ることができるのです。

また、大きな体の動きが含まれるようなシチュエーション。例えば、自転車ペダルこぎのようなエクササイズをしているような状況においても、呼吸を非接触で測れることが研究の結果から分かりました。

これは世界で初めてわれわれが発見・発明した技術であり、当研究クラスターにおいて、地元企業とともに実用化に向けた研究開発が進められています。

これまでの方法ですと、呼気を測定するマスクを装着することで、息苦しさを感じてしまい、自然な呼吸ができないことから子供や高齢者に対して正確な代謝能力が測定できないことも考えられます。また、測定装置がたいへん高価でメンテンスが必要であったり、器具の装着や取り外しなどで測定にかなりの時間を要したりしました。これに対し、われわれの三次元画像センシングシステムであれば、無拘束で測定ができますので、所定の場所に座ってすぐに測定開始することができ、測定中のストレス軽減も期待できます。また装置も安価でメンテナンスもほとんど必要としません。

病気で体力が落ちている人への活用
─医科大学との共同研究で見えてきた課題

現在、埼玉医科大学にこのシステムを設置していただき、呼吸器内科やリハビリ科の医師や技師らと連携して共同研究を行っています。

呼吸器のリハビリテーションとして運動療法が用いられています。

肺疾患の方の治療の効果を調べるためには、まずは呼吸を測る必要があります。ただ、前述の呼吸マスクを装着する測定方法ですと、重度の患者さんには測定に耐えられません。このため、この非接触での測定システムは、重度の患者さんに適用可能な有効な方法であるという声が高まってきています。

肺疾患を持たれている患者さんの数値を実際に測ってみるといった実験も開始しましたところ、いろいろ課題もでてきています。十分な筋力がある人を計測する場合は姿勢が安定していますので、計測が比較的容易ですが、筋力が弱い人の場合、運動時の姿勢が安定しないため、正しい計測が難しいといった課題がありました。現在、不安定な体の揺れを画像技術で追跡し、その影響を自動的に除去する技術の開発に取り組んでいます。

老化を抑え、健康寿命を伸ばす。
高齢化社会での実用化に向けての取り組み

有酸素運動は続けないとその効果が表れないものですが、最近のスポーツ科学の研究では、無酸素運動を1週間に数回、2、3回行うだけでも、30分の有酸素運動を毎日続けるのと同等かそれ以上の効果があるということもわかってきました。体に負荷を掛け続けると、体が有酸素運動から無酸素運動の代謝メカニズムにシフトしていくのですが、負荷をかけすぎると怪我をしてしまいます。筋肉痛や、ひどい場合だと肉離れや疲労骨折などを引き起こしてしまいます。そのような状態にならないために、その人にとって最適な運動負荷を決める必要があります。有酸素運動から無酸素運動に切り替わるポイントは無酸素性作業閾値と呼ばれますが、このポイントとなる運動負荷で運動すれば、安全なエクササイズを実施できると考えています。

高齢者にとっての生活の質を維持・向上することが医療・福祉業界でも求められていますが、そのためには運動が必要であり、運動する際の筋力が重要になってきます。

無酸素運動で運動することによって、筋量を落とさない、あるいは増やしていくような運動をすることが大切です。有酸素運動を行っても脂肪が代謝するだけですが、無酸素運動することによって、筋肉が増え、成長する。高齢になっても筋力を向上することは可能ですので、結果として老化を抑えることができ、健康寿命を伸ばすことに繋がります。

このシステムが実用化されれば、医療、リハビリ、福祉施設に留まらず、スポーツクラブや教育機関など広い分野で利用できると考えています。また、システム・装置が安価なので、自宅で利用したいといったニーズも出てくると嬉しいですね。

子供の運動能力にも着目。
ヒューマンセンシング技術の活躍するフィールドを拡げたい

高齢化社会に役立つシステムをテーマに挙げていますが、最近では子供の運動能力向上に役立つ取り組みも始めています。

三次元画像計測で取得された人体の形状情報をもとにモーションキャプチャーを行うことができます。つまり、マーカーを体に取り付けなくても体の動きを計測することが可能です。この技術を利用して、エクササイズ支援システムの開発を進めています。

疑似力触覚(Pseudo Haptic)という人間の脳の錯覚現象を利用して、体に重りや器具などをつけずに筋活動をコントロールできないか、という研究をしています。木に登ったり泳いだりするような動きをモーションキャプチャーし、それにあわせて画面上のキャラクターが木を登ったり泳いだりするゲームを開発しました。画面のキャラクターの動きを実際の体の動きから遅らせると、腕が重たく感じ、その結果、筋活動にも影響することがわかってきました。

ゲームのようなアミューズメントシステムとして実用化することで、医療や介護福祉の枠を超え、若い世代が興味を持ってくれるのではないかと。そうなると、このシステムが活躍する分野はさらに広がると感じています。

キーワード

■疑似力触覚(Pseudo Haptic)

ユーザの手や手に相当するポインタなどの見え方を変化させることで、実際には触れた感触がないにも関わらず、触覚や力覚などの情報を脳に伝える技術 視覚と運動とのギャップが発生したときに、そこを脳が補おうとして起こる錯覚現象と言われている。

農業やアート、
三次元画像センシング技術を応用して豊かな市民生活へ

人のセンシングを主なアプリケーションとして、研究開発に取り組んでいますが、最近では、農業分野への応用についても検討を進めています。

環境による植物の生育状態を三次元的にモニタリングするシステムの開発に取り組んでいます。最近では各地で人工光を利用した植物工場が展開されています。人工光の種類による植物の成長を三次元画像センシングすることで、植物の丈や葉面積などを定量的に継続的に算定することが可能となります。これにより、植物に適した人工光を選定して、植物工場を最適化することができるようになると考えています。

また、メディアアートと呼ばれる現代アート作品に利用可能となる三次元画像センシング技術の開発にも取り組んでいます。

前出の非接触での呼吸計測を利用することで、作品を見ている人の呼吸を反映して映像が変化するような作品を制作できます。また、見ている人の三次元座標にあわせて照明が変化するような作品を制作することも可能です。

最近では、STEM教育にアートの“A”を加えて、STEAM教育を行うことが重要視されるようになってきました。アートを研究対象として加えることで、学生たちへのSTEAM教育に繋がることが期待できます。制作した作品を市民の方々に見ていただくことで、アートやテクノロジーに関心を持っていただくことができたら嬉しいです。

キーワード

■STEM教育(STEM Education)
Science, Technology, Engineering and Mathematics(科学・技術・工学・数学)に関連する教育を総称する語、あるいは、これらを総合した学習のこと。中等教育以降のSTEM教育の成否は初等教育で決定されるため、幼稚園や小学校低学年の段階でSTEMに対する興味を持ってもらうような教育が必要であるという考えに基づく。

■STEAM教育(STEAM Education)
STEM教育にArts(芸術、リベラルアーツ)を統合した教育手法。STEMは収束思考に陥りがちだが、Artsを加えることで拡散思考がなされ創造的な発想が生まれることが期待できるとされる。

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