
分子変換技術研究クラスター
反応活性種の創出と有機反応への利用
従来の合成技術では困難であった分子変換反応の開拓および短行程分子変換法の開発を目的とする。
また、機能性分子の創出も目指す。
コーディネーター

堀野 良和 HORINO Yoshikazu
公立千歳科学技術大学 教授・博士(工学)
専門分野
有機合成化学
経歴
長崎大学工学部応用化学科卒業
長崎大学大学院生産科学研究科海洋資源学専攻修了
日本学術振興会特別研究員(DC2)
モンタナ州立大学博士研究員
益財団法人 相模中央化学研究所 触媒化学グループ
日本学術振興会海外特別研究員
ケルン大学博士研究員
カリフォルニア大学バークレー校博士研究員
所属学会
日本化学会、有機合成化学協会、近畿化学協会、アメリカ化学会
遷移金属触媒を用いる新規分子変換反応の開発
有機合成化学は、単純な分子から高い価値を生み出す力を持っています。これは有機合成化学の大きな魅力の一つです。
例えば、化石燃料から医薬品、農薬、機能性材料をつくることができます。私たちはあらゆる生活の場でこれらの恩恵を享受しています。
有機化学者は、目には見えない分子を分子設計し、目的の化合物をつくることができます。これらは数段階で済むものもあれば数十段階もの工程を必要とするものもあり、様々な化学反応が必要となります。合成の工程数が少なければ廃棄物が少なくなり、環境に優しくコストも安くなります。
私たちは、医薬品や機能性材料の開発に必要な新しい有機合成反応の開発に取り組んでいます。
特に、異なる二種類の金属原子を有する反応中間体を利用した反応開発に取り組んでいます。
メタロイド置換π−アリルパラジウムを利用する新規分子変換反応
辻−トロスト反応に代表されるように、π−アリルパラジウム上のアリル基はアリルカチオン等価体としてアリル化反応に利用されています。
これとは対照的に、σ−アリルパラジウム中間体が求核的な性質を示すことが見出されました。これを契機として、σ−アリルパラジウム中間体形成を鍵とした様々な求核的アリル化反応が開発されています。
一般に、σ−アリルパラジウム中間体が求核性を有するには、パラジウム上に電子供与性能が高い配位子を配位させる必要があります。最近では、σ−アリルパラジウム中間体をアルデヒドやイミンへの触媒的不斉アリル化反応へ応用した例や、二酸化炭素の固定化反応に利用した例も報告されています。
このように、従来のアリルパラジウムに関する研究は、パラジウム上のアリル基の極性を変化させることに凌ぎを削ってきました。
私たちは、アリル位にパラジウムとメタロイドが置換した中間体を利用することで、新たな炭素−炭素結合形成反応が開発できると期待し取り組んでいます。
キーワード
■パラジウム
■メタロイド
半金属のことです。半金属とは、金属と非金属との中間の性質をもつ元素のことです。ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルルが半金属です。
■ケイ素
■ホウ素
■触媒
■有機合成
アルキニルスズの活性化を駆動力とする新規アレニリデン金属錯体の発生と触媒反応への応用
アルキニルシラン、アルキニルゲルマニウム、アルキニルスズ、アルキニル鉛などの炭素−金属結合は分極しているだけでなくその結合解離エネルギーも小さくなります。
金属上の置換基にもよりますが、一般に、炭素−金属結合の分極はケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛の順に大きくなります。この特徴を利用した反応の一つに、1,1−カルボボーレションが挙げられます(図1a)。一方、β−スタニルアリルアセテートは不安定で、立体特異的に脱離反応を起こすことが知られています(図1b)。
私たちは、この二つの反応(図1a、 b)を反応系中で連続的に達成できれば、新しい反応中間体を発生させることができると期待し取り組んできました。
例えば、トリアルキルホウ素存在下、γ−スタニル置換プロパルギルアセテート1とアルデヒドとの反応をTHF–水混合溶媒中で行うと、アルデヒドのプロパルギル化反応が高い不斉転写率で進行することを見出しました(図1c)。
その他にも、化合物1を用いたアレニリデン金属錯体の発生法と新規触媒反応の開発も行っています。
キーワード
■カルベノイド
炭素中心が2価の結合をもち、価電子を6個しか持たない中間体のことをカルベンといいます。形式上、カルベンを配位子とした金属錯体 (R2C=M) をカルベン錯体、あるいはカルベノイドと呼びます。
■スズ
■アルキン
■遷移金属
周期表で第3族元素から第12族元素の間に存在する元素の総称のことです。
■触媒
化学反応の前後でそれ自身は変化しないが、反応の速度を促進させる物質のことをいいます。
■有機合成