バイオミメティクス研究クラスター
研究クラスター事業

バイオミメティクス研究クラスター

持続可能社会を実現するための生物模倣技術とは
-古くて新しい「バイオミメティクス」

(1)ゼロカーボン(2)持続可能なパッケージング(3)着雪氷防止技術研究クラスターならびにドローン振興研究クラスターとの連携により『Smart Nature Cityちとせ』の課題を抽出するとともに(4)千歳水族館との連携によるオープンサイエンスパーク千歳を通じて地域と課題を共有する。

コーディネーター

coordinator

下村 政嗣 SHIMOMURA Masatsugu

公立千歳科学技術大学 特任教授・工学博士

専門分野

生体模倣技術(バイオミメティクス)、自己組織化、界面化学、ナノテクノロジー、高分子科学

経歴

九州大学工学部合成化学科卒業
九州大学大学院工学研究科合成化学専攻修士課程修了 工学博士取得
九州大学工学部助手
東京農工大学工学部助教授
北海道大学電子科学研究所教授
理化学研究所フロンティア研究システムチームリーダー
東北大学多元物質科学研究所教授
千歳科学技術大学教授
北海道大学名誉教授 東北大学名誉教授

所属学会

高分子学会、日本化学会、表面科学会

生態系に学ぶ持続可能な街づくり

千歳市がもつ豊かな自然がもたらす生態系サービスと交通アクセスを生かした持続可能な街づくりに向けて、地域における“知の拠点”である公立千歳科学技術大学においては、自然環境との共生を可能とする持続可能な循環型地域としての『スマートネイチャーシティちとせ(SNC)』構想を展開しており、環境、経済、社会の統合的向上による自律的好循環を目指した地域創生を目指しています。バイオミメティクスクラスターにおいては、“生態系に学ぶ持続可能な街づくり”の観点から国土強靭化と循環型経済の実現に向けて、”Smart Nature City ちとせ”におけるレジリエンスの課題を抽出いたします。さらには、ゼロカーボンパーク支笏湖やゼロカーボンシティー千歳の実現に向けた研究課題の抽出により、バイオミメティクスの基礎基盤である生物多様性と生態系サービスをもたらしている生態系システムそのものを模倣するNature based Solutionとしてのエコミメティクスの確立を目指します。

持続可能な街づくりに貢献するバイオミメティクス

公立千歳科学技術大学地域連携センターが、サケのふるさと千歳水族館や北海道大学総合博物館との協力のもとに運営しているサイエンス・コミュニケーションの場である“オープンサイエンスパーク千歳”や“支笏湖デザインプロジェクト”と連携し、様々なステークホルダーとの連携のもとに、地域における持続可能な街づくりの現状と課題解決に貢献し得るバイオミメティクスの研究課題を抽出するとともに、着雪氷防止技術研究クラスター、ドローン振興研究クラスター、観光振興研究クラスターとの連携のもとに、産官学実施プロジェクトの提案を目指します。具体的には、ゼロカーボンを目指す生態系サービスの活用、持続可能なパッケージングを目指す材料開発と環境評価、着雪氷防止技術を支える材料開発、生態系サービスがもたらす持続可能な農業へのドローン活用、などにおいて多様なステークホルダーとの連携を目指します。

生物の未知なる性能をナノテクノロジーで応用
新しい技術革新のさらなる発展へ向けて

「バイオミメティクス」という分野をご存知でしょうか。日本語に訳すと「生物模倣」。例えば、生物が持っている構造をナノレベルで分析する事で構造がもたらす機能を解明して、新しい材料を開発する技術のことです。鳥を見て飛行機を発想したレオナルド・ダヴィンチにさかのぼる古くからある考え方です。

バイオミメティクスの観点は、実は皆さんが日常的に使用している商品の中にたくさん存在しています。その代表例は、布の素材として使用されている合成繊維の「ナイロン」です。合成繊維は絹や木綿を模倣して化学合成した、バイオミメティクスの典型例ですね。食後の後片付けの際に使用するキッチンスポンジも、海綿という海洋生物から着想を得た馴染み深いプラスチック製品の一つでしょう。そんなバイオミメティクスがあらためて世界的に注目されている背景には、ナノテクノロジーによる電子顕微鏡の飛躍的な性能向上が大きく関わっています。

ルーペで見えていた世界よりもずっと微細な表面の構造を観察できるようになったことで、今世紀に入ってから微細構造の理解度が急速に進み、更なる技術革新を迎えている、現在まさに発展を続けている分野なのです。生物の表面構造を観察することで開発されたいくつかの製品を紹介しましょう。

サメ肌を覆っている鱗には微細な溝状の構造があり、流体抵抗を下げる機能があることが発見されました。リブレット構造とよばれる溝構造を持つ競泳用水着がオリンピック記録を更新したことは有名です。最近では旅客機の表面にリブレット構造を塗装し燃費をあげる開発がされています。

表面構造の観察で面白い発見がありました。爬虫類の「ヤモリ」です。ヤモリが壁や天井を重力に負けず、自在に歩き回れるのはなぜか。手や足から特別な粘着剤が出ているわけではありません。手足の裏側に非常に細かい毛が群生しているのです。毛がたくさん生えていているということは、見方を変えると表面積が非常に広いというになります。実はヤモリは『ファンデルワールス力(りょく)』という、分子と分子との間に働く弱い引力を利用して壁や天井を自由に移動することができるのです。表面積が広いので、弱い力が集積されてヤモリの体重を支えることができる大きな力になるのです。この原理を応用して粘着剤を使わない、繰り返し使用ができる粘着テープが開発されて商品化されています。

モルフォ蝶という南アメリカに広く生息している、美しいブルーカラーが特長の蝶々がいます。実はその色は色素による発色ではないのです。モルフォ蝶の鱗粉の内部には光の波長ほどの非常に細かい、周期的な構造があり、干渉という現象のために波長によって強弱が生まれ、青い光だけが反射して私たちの目にはブルーに見えるのです。微細構造による干渉がもたらす発色のことを「構造色」と呼びます。シャボン玉の虹色は構造色によるものです。色素や顔料を使わないので、色材の化学変化による色あせがありません。そこで繊維会社がモルフォ蝶の特性を利用して繊維やフィルムを開発しました。耐久性がある表面塗装材料として、自動車会社でも高級車を中心に注目している技術です。

最後にもう一つご紹介すると、「蛾の目」があります。蛾は夜行性で、その目を観察してみると真っ黒なんです。目の表面には光の波長よりも小さな凹凸があり光が反射しない構造になっているのです。光が反射しないということは効率良く光が入ってくるということなので、暗がりでも月明かりなどの弱い光を吸収することができるため、夜間に飛び回ることが可能になります。無反射性を別の観点からみると、目が光らないので蛾の天敵である鳥に捕食されにくい特性も合わせ持っているのです。本当に、生物の生き残るための仕組みは素晴らしいと思います。蛾の目を模倣した技術がパソコンやテレビ画面の反射を抑えた無反射フィルムに応用されています。

いくつかの例を紹介しましたが、いかに私たちの身の回りに「生物模倣」から得たテクノロジーであるバイオミメティクスが存在するかを認識して頂けたでしょうか。

 

長期的なスパンで環境に優しい技術革新を進めるにあたって、自然に則って存在している生物の機能を模倣しながら開発を進めていくバイオミメティクスのあり方は非常に重要であり、理にかなっていることだと思っています。環境への考慮なしに化学物質を生み出すのか?、自然界の中に存在している機能や構造を応用したものを作り出すのか?。“持続可能な方法で、地球温暖化を促す余計なエネルギーを使わない自然や動植物から学びましょう”、という考え方が世界規模で広がりを見せつつあることは喜ばしいことです。

今後の「バイオミメティクス研究クラスター」における研究テーマと課題

Smart Nature City ちとせ構想が目指す持続可能な街づくりに、我々がお手伝いできることとしてクローズアップしているのが「パッケージデザイン」です。

北海道は美味しい銘菓やお酒、食品などの食材の豊かな宝庫であり、食を求めて観光客が世界中からやってくる場所です。食品に付き物なのがそれを納める箱や容器で、使い捨て容器の素材を含めどのようにデザインしていくのかという課題があります。その背景には、EUで2021年までに使い捨てプラスチック禁止法案が可決されたり、世界的にマイクロプラスチック(5mm以下の微小なプラスチック片)による海洋汚染の問題があり、使用する容器の素材を改善しなければならないといった声が大きくなっています。

そこで「バイオミメティクス研究クラスター」の活動を基に、持続可能なパッケージングの開発を地元の企業と共同で、液体や食品のパッケージ材料をプラスチック製から紙に置き換えて製造することはできないか、というプロジェクトが平成29年度のノーステック財団研究開発助成事業に採択されました。

水滴がつるっと落ちるイメージのある「蓮の葉」。蓮の葉の表面は微細な凹凸構造とほんの少しだけ分泌される天然のワックスの相乗効果によって、超撥水と呼ばれる水を弾く性質を示します。蓮の葉から着想を得て、紙を製造する過程で表面に微細な凹凸構造を作ることができないか、更には、完全防水でかつ酸素も通さない紙素材の製品化を目指しています。今後の課題として、耐久性、耐熱性、防臭性などの他に、食品の味の保全性など、様々な業界との協働による検証が不可欠になります。

キーワード

■Smart Nature City ちとせ構想

千歳市の豊かな自然がもたらす生態系サービス(水・緑・温泉)を生かした“持続可能な街づくり”に向けて、千歳市が抱える課題を抽出し、公立千歳科学技術大学が持つ科学技術を活用することで、自然環境との共生を可能にする持続的な循環型地域を展開し、環境、経済、社会の自律的好循環を目指した地域創生へと繋げていく取り組み

国土強靭化の取り組みと「バイオミメティクス」の可能性

現在、防災・減災の国家的なリスクマネジメントを行い、強くてしなやかな国土をめざし、安全・安心な生活づくりを実現する国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)は、持続可能な街づくりにとって喫緊の課題です。
 北海道胆振東部地震の時も、地域住人や観光客の避難経路の確保や誘導、ブラックアウトとそれにともなう電力、通信、水道などのインフラの確保など、大きな課題がクローズアップされました。

そこで防災対策とは一見何の関係性もなさそうなのですが、先ほど紹介した「海綿」を別の観点から見てみたいと思います。

海綿はたくさんの穴からなる多孔体で、穴から海水を取り込むことで餌をとり呼吸をします。海綿の内部は細かい管が三次元に広がった、いわば水路が絡み合った、複雑な集合体として非常によく出来ている生物です。たとえ一つの水路が詰まっても、別の水路を迂回することで全体に水を供給しながら生きながらえることができる、フェールセイフともいうべき持続可能なシステムを持っています。海綿をバイオミメティクスの観点から「国土強靭化」に応用すると、一見全く関連性がないように思われる生物の構造と、街づくりや災害時の電力の送電、交通、通信などのインフラネットワークの設計に共通するレジリエンス(回復力)のデザインが可能なのではないかという発想をすることができます。

非日常的な防災や災害のためだけにインフラ整備をするのではなく、日常的な観光事業計画として取り組む、例えば、道の駅建設や観光サービスのためのインフラ整備が、想定外の災害の際に活用できるのです。

幅広い分野で応用が可能な「バイオミメティクス」の認知度をあげるために

市民、特に子供を対象としたイベントを、公立千歳科学技術大学の学生が運営している「昆虫クラブ」の協力を得て開催しています。子供の頃に野山を駆け回って虫取りすることが教育の上でも素晴らしい効用があると言われていますが、山や川、湖といった、まさしく自然豊かな千歳で開催することで、「バイオミメティクス」という取っつきにくい科学技術を知ってもらうために、子供たちが自然を体験できる絶好の機会である昆虫採集に合わせて、毎年夏に開催しています。北海道博物館や北大博物館、更には国立科学博物館から昆虫に詳しい研究者を指導者として招聘し、安全な昆虫採集を心がけています。

もちろん、生物学として昆虫の生体や特徴を学べるだけでなく、その表面を顕微鏡で詳細に観察したり、3Dプリンタを利用して捕獲した虫をモデリングしてみるといった、先端の科学技術に触れることもできる、とても楽しい盛りだくさんな企画になっています。

「バイオミメティクス研究クラスター」の活動によって、子供達への企画を通して、父兄の皆様にもバイオミメティクスに触れていただき、生物を知ることがどのように技術革新に活かされているのかを知っていただく機会にしたいと考えています。

また、千歳工業クラブや千歳商工会議所、千歳観光連盟、千歳青年会議所、北海道中小企業家同友会をはじめ多くのステークホルダーの方々には、紙の製造や印刷技術、車の塗装技術や、魚群に学ぶ自動運転技術など、バイオミメティクスが多岐に渡る分野で応用が可能であり持続可能な街づくりに貢献できることを、業種の壁を超えて知っていただき、今後も「バイオミメティクス研究クラスター」を活用することで利用する市民の皆さんと一緒になって、新たなイノベーションへの発展に尽力していきます。

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